東京高等裁判所 昭和46年(行コ)3号 判決 1972年4月27日
東京都台東区浅草六丁目三四番一〇号
控訴人
須賀商事株式会社
右代表者代表取締役
大橋新二郎
右訴訟代理人弁護士
木下良平
東京都台東区蔵前二丁目八番一二号
被控訴人
浅草税務署長吉沢利治
右指定代理人
大道友彦
長沢幸男
川合弘
中山五郎
右当事者間の昭和四六年行(コ)第三号法人税額更正決定等取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が不動美術株式会社に対し昭和四二年一一月三〇日付をもつてした同会社の昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の法人税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
控訴代理人の陳述
一、本件処分中、過少申告加算税の賦課決定は法人税の更正決定が違法である以上もとより違法として取消を免れないが、仮に右本税の更正決定が違法ではないとしても、以下述べるように、本件においては右過少申告加算税を賦課すべき理由がない。即ち、過少申告加算税は申告義務違反に対する行政罰として課徴されるものであるが、行政罰たるの性質上、申告納税額が更正又は修正申告による納税額より過少であることにつき正当の理由がある場合には課されないものとされている(国税通則法第六五条第二項)。ところで本件においては、控訴人会社が吸収合併をした不動美術株式会社は昭和三七年一一月二五日所轄税務署長である被控訴人に対し青色申告書提出の承認申請書を提出した後六事業年度に亘つて青色申告書を提出し、被控訴人によつてこれが異議なく受理され、被控訴人側からはなんらの指示、注意がなされることもなかつたので、右不動美術が被控訴人によつて青色申告法人として取扱われているのもと信じ、かつ、かく信じたことについては正当な理由があつたものである。さればこそ不動美術は、青色申告法人の特典である各種繰越金につき損金計上をなし、本件申告納税をしてきたものであり、不動美術の申告納税額が過少であつたことについて責めらるべき点はなく、右過少申告加算税の賦課決定は、前掲国税通則法の規定に照し、違法の処分として取消さるべきものである。
二、被控訴人主張の下記事実中、被控訴人から不動美術に対して白色の確定申告書用紙が送付されたとの事実は否認する。
被控訴代理人の陳述
控訴人主張の前記一の事実中、被控訴人が不動美術からの青色申告書用紙を用いてなされた確定申告を受理していたとの点は認めるが、その余は否認する。税務署の一般的な取扱として、管内の全法人に対して、毎事業年度の確定申告に際し、申告期限の約一ケ月前に、備付の法人税事務原簿に基づき、白色申告法人に対しては白色(一般)の確定申告書用紙を、また、青色申告法人に対しては青色の確定申告書用紙をそれぞれ郵便により配付しているところ、被控訴人は不動美術に対しても白色申告法人として、白色の確定申告書用紙を毎事業年度の申告に際して郵送したのであるが、不動美術は右郵送にかかる白色の確定申告書用紙を用いることなく、敢て市販の青色の確定申告書用紙を用いて申告をしたものである。また、青色申告法人については、納付すべき税額がない場合であつても、欠損金額の計算に誤りがあると認められるときは更正がなされるのであるが(法人税法第一三〇条)、不動美術からの確定申告については青色申告としては誤りがあるのにかかわらず更正がなされていないのである。しかも、不動美術は、法人税の確定申告に際し法定期限内に申告をなさず、確定申告書の記載も不備であり、確定申告書に添付すべき書類も添付しない等、その提出した確定申告書はとうてい青色申告書による申告ということができないばかりでなく、白色申告法人の確定申告書としての要件さえも満していなかつた。以上のような事実を併せ考えれば、不動美術は自ら白色申告法人であることを十分承知していたもので、青色申告法人と誤信する筈はなく、もし仮に不動美術が自ら青色申告法人であると誤信していたとするならば、それは不動美術の独自の判断に基づくものであつて、国税通則法第六五条第二項所定の正当な理由がある場合にはあたらない。
証拠関係
控訴代理人において、当審証人岩沢正の証言を援用した。
理由
当裁判所は、当審におけるあらたな弁論および証拠調の結果を参酌するも、控訴人の本訴請求を失当であると判断するものであるが、その理由は以下に付加するほかは、原判決がその理由において説明するところと同一であるから右理由説明を引用する。
一 控訴人は不動美術株式会社(当時の商号はシープシユーズ株式会社)において昭和三七年一一月二五日青色申告書提出の承認申請書を所轄税務署長に提出した旨主張するけれども、この主張事実が認められないことは右に引用した原判決が説明するとおりである。当審証人岩沢正の証言中右認定と牴触する部分は、いずれも成立に争のない甲第二号証、乙第一ないし第七号証及び同第一〇号証の一ないし三並びに原審証人鈴木茂男の証言に照し、当裁判所の措信しないところである。而して上記各乙号証、いずれも成立に争のない乙第八、九号証及び同第一一、一二号証並びに上記証人鈴木茂男及び証人岩沢正の各証言を総合すれば、従来税務署においては、管轄区域内の法人の毎事業年度の法人税の確定申告に際して、一般的な取扱として、申告期限に充分の余裕をみて、備付の法人税事務原簿に基づいて、白色申告法人に対しては白色の確定申告書用紙を、青色申告法人に対しては青色の確定申告書用紙をそれぞれ郵送するのが例であること、而して被控訴人備付の法人税事務原簿には不動美術は白色申告法人として登載されており、従つて不動美術に対しては、第一事業年度(自昭和三七年九月八日至同年一月三〇日)以降不動美術が控訴会社に吸収合併された年度の前年度で本件係争事業年度である第六事業年度(自昭和四一年四月一日至昭和四二年三月三一日)に至るまで各事業年度の確定申告期限前にその都度白色の確定申告書用紙が郵送されていたものと認めることができるとともに(原審証人須藤洋之の証言中、不動美術に対しては税務署から青色の確定申告書用紙が郵送されてきていたとの部分はにわかに措信し難い)、他方において、不動美術は上記第一事業年度から第六事業年度に至るまでの各事業年度の確定申告を、所轄税務署から送付された白色の確定申告書用紙を用いることなく市販の青色申告書用紙を用いてしていたことが明かである。
以上認定の事実によれば、不動美術は、法人税の確定申告について青色申告書提出の承認を得ておらず、所轄税務署からは白色申告法人として取り扱われていることを知りながら、係争事業年度(第六事業年度)の法人税の確定申告をしたものと判断するのが相当である。なお、青色申告書提出の承認の申請がなされていない以上、たとえ所轄税務署が青色申告の用紙を用いてなされた確定申告を異議なく受理したとしても、そのことによつて当該法人がいわゆる青色申告法人となるいわれはなく、本件においても、不動美術が青色申告書用紙を用いてした第一事業年度から第四事業年度に至るまでの各年度の法人税の確定申告が所轄税務署によつて異議なく受理されたことは、右確定申告が白色の確定申告として問題とすべき点がなかつたことによるものであつて、所轄税務署が右確定申告を青色申告として受理したことを意味するものと解することはできないのである。されば、仮に不動美術が青色申告法人として取扱われているものと信じていたとの事実があつたとしても、それは単なる誤解に止まるものというべく、本件係争過少申告については国税通則法第六五条第二項所定の正当の理由があるので本件過少申告加算税の賦課決定は違法として取消さるべき旨の控訴人の主張はこれを採用することができない。
よつて原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条第一項の規定によつて本件控訴を棄却すべく、訴訟費用の負担につき同法第九五条及び第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 平賀健太 裁判官 石田實 裁判官 安達昌彦)